昨今、しばしば耳にする「やりがい搾取」。
「頑張れば会社は評価しますから」「みなさん、目に見えないところで努力してます」
このような励ましの言葉から、
「頑張らないと報酬に影響するから」「時間ならいくらでも作れるもんだ」というような半ば脅迫じみた言葉を発する組織(人)もいます。
フリーランスはやりがい搾取の温床とも言われており、かくいう私も同じような目にあったことが何度もありました。
今回は、このやりがい搾取について語ろうと思います。
そもそも「やりがい搾取」とは
やりがい搾取は、ハラスメント行為に分類されますが、どこまでがやりがい搾取なのか、曖昧になっている感じがします。
ハラスメント系は「どこまでが行為に該当し、どこまでが勘違いなのか」という境界線が曖昧なため、しばしば裁判沙汰になることもあるそう。
なのでまずは、やりがい搾取の本当の意味からご紹介します。
やりがい搾取(やりがいさくしゅ)とは、経営者または依頼者が本来支払うべき賃金や手当、料金の代わりに、労働者に「やりがい」を強く意識させることでサービス残業(長時間労働)や無賃労働を勧奨し、本来支払うべき賃金(および割増賃金)や料金の支払いを免れる行為をいう。東京大学教授で教育社会学者の本田由紀により名付けられた。
「やりがい搾取」という造語は、2007年前後から本田が著書などで使い始めたことで広く認知されるようになった。ブラック企業とやりがい搾取は密接な関係にあるとされ、「やりがい」と「報酬」はトレードオフの関係にはならない。
wiki より引用
wikiの引用文を見ると、金銭や労働時間が絡んだ場合に「搾取」と判断されるようです。単に「お前仕事やれよ!」と言った程度では、搾取とは言えないのですね。
やりがい搾取が問題になった職業と事例
では、どのようなケースがやりがい搾取と認定されるのでしょうか。社会問題になった職業と事例は、以下の通りです。
- アニメーター
2010年10月に、当時28歳の男性社員が自殺。過労によるうつ病が過労自殺の原因として、労働災害認定された。 - ボランティア
2020年東京オリンピック・パラリンピックのボランティア募集要項が発表。その中に「交通費及び宿泊は自己負担・自己手配」などの記述があり、「ブラック企業より酷い」「やりがい搾取」などの批判を受ける。 - 大手広告代理店社員
20〜30代の社員が続けて自殺し、社会問題になった。 - 牛丼チェーン店員
過労死ラインを超える月100時間を超える残業を従業員にさせていた。 - 大手電機メーカー社員
社員が自殺や精神障害を発症する事例が次々に判明。 - コンビニエンスストア店員
数万人に対して4億をこえる残業代を支払わな買ったことが判明した。 - 芸人
月100時間を超える残業と、その手当を支払わなかったとして所属タレントが次々に退職。
かなり深刻な状況ですね。大人の圧力が心配なので、具体的な会社名は伏せますが、ニュースにまでなった問題ですので、気になる人は検索してみてください。
あなたがやりがい搾取されてしまう原因と特徴
わたしも大分やりがい搾取されてきた側ですが、今思うとやりがい搾取されてしまう人はこんな傾向があると思います。
- 仕事を断れない
- つい無理しちゃう
- 価格交渉ができない
- 尊敬する人に意見できない
- プライベートでON/OFFの切り替えができない
- コミュニケーション取るのが下手
- 何かとつい帳尻を合わせてしまう
- お金をもらうことが悪いことだと思ってしまう
まとめると「強気に出れない人」ですね。
クライアントの要望に応えたいがために、自分のリソース以上の仕事を請け負ってしまう。そんな姿勢は素晴らしくもありますが、自分で自分の首を絞める行為です。
フリーランスもやりがい搾取で同じような目に遭うのか
フリーランスと言えば、ライター・コーダー・プログラマー・デザイナー・youtuberなどを挙げる人が多いと思いますが、地下アイドルや陶芸家、左官業など、個人でやっている人は全て該当します。
これらの職業の人は皆全て、完成した商品やサービスに対し「納品されるかされないか」という、荒野をナイフ一本で彷徨い歩くハンターような世界で生きています。
上記の例を見る限り、労働時間及びその報酬に対して明確なラインが引かれていないことが原因だと思われます。
「途中でめっちゃ頑張ったから!」「寝る時間を惜しんでやったから!」という経過や過程に対しては、全くと言っていいほど評価されません。特にイラストレーターさんは、納品前に「いくつか見本作ってみてよ」と言われ、その試作品に対しては対価が支払われないことも多々あるのではないでしょうか。
よって、結果が全てと言うフリーランスは、搾取事件に遭ってしまう恐れが大きいと言えます。
フリーランスがやりがい搾取されないために
かくいう私も深夜1時まで、かつ朝の4時から作業したこともしばしばあります。
また、急に「明日まで出して!」と無茶苦茶な納期を提示され泣く思いで作業したり、3日かけて作った構成案やイラストを「何でこんなん作ったの?いらない」と言われ報酬がなかったりしたこともありました。
「作業しろ」と言われたのではなく、「作業しなきゃ信頼を失う!」という強迫観念で作業していたことも少なくありません。
当時は「こうしなきゃ生きていけない」と思っていましたが、今冷静に考えると「そこまでしてもいい結果じゃなかったな」と遠い目で思い返すことがあります。
もし、あなたが会社員ではなくフリーランスであったなら、自分の身は自分で守るしかありません。
フリーランスという組織では、あなたが社長です。社員というあなた自身の健康と尊厳を守るための知恵を身につけていってください。私が約10年間のフリーランス生活をした結果、「これ知っといた方が良かった」と思ったことをご紹介します。
搾取対策1、契約書を取り交わす
フリーランスは業務委託業ですが、契約書の取り交わしが面倒だったり、相手の要望で契約書自体が存在しなかったりすることがあります。
もし、契約書を取り交わしているのであれば、不当な労働に対して「契約書とは違いますよね」とはっきり言えます。しかし、契約書の取り交わしがない場合は、この部分が非常に曖昧になり、時給に換算したら100円にも満たなかった…なんてことも。
ちなみに民法上では、口約束だけの契約も見事に成立してしまいます。不動産業界では契約書の取り交わしが義務付けられていることもありますが、フリーランスが契約書の取り交わしをしないこと自体は、違法行為ではありません。
第521条
何人も、法令に特別の定めがある場合を除き、契約をするかどうかを自由に決定することができる。
wikibooks
契約の当事者は、法令の制限内において、契約の内容を自由に決定することができる。
では、なぜ契約書が必要なのか。
契約書は、労働者を守るために存在しています。契約書がない=自由ではありません。
具体的な取り交わしがないと、納品後に延々と修正を求め続けられたり、納品一歩手前で契約が打ち切りになったりすることもあります。そんなんされたら、泣き寝入りするしかありません。
もし、契約書を作成してもらえることになったら、この辺を明記してもらうといいです。
- どの段階で納品とするのか
- 納品後の修正対応に報酬は含まれるのか
- 途中で契約が終了となった場合の作成物は報酬に含まれるのか
もっとあるかもしれませんので、自分が不利にならないような項目を探してみてください。
基本的に、契約は取り交わす前であれば、契約内容の変更が可能です。なので、契約書はきちんと読み、意義があれば変更してもらいましょう。たまに、雇用主にとって有利な条件ばかりが記載されている時もありますよ。もしそのような事項を発見したのであれば、きちんとNOと言いましょう。
契約書をよく確認しないまま不利な契約しても、すでに契約書にサインしている場合は「不利な内容に同意した」ことになるので、ご注意ください。
搾取対策2・「何でもできる」とは言わない
駆け出しのフリーランスにありがちなことですが「わたし何でもやります!」と言う人が多いです。
一見、何でもできる人って依頼数がしこたま来そうですが、足元見られます。
「何でもできる=便利屋=頼めば何でもやってくれる」っていう構図が簡単にできちゃいます。一時期、私もそんなノリで活動してきましたが、愚かでした。
例えば、ライティングもできる、デザインもできる、コーダーもできる人がいるとしましょう。そうすると当初ライティングのみの契約だったのが「ついでに入稿もやってくれる?」「アイキャッチ画像の設定も頼むね」と、さらっと頼まれる場面が出てきます。
よく考えてみてください。それ、報酬あります?
追加料金も発生しないのであれば、絶対断るべきです。でも、心優しいあなたは「断ったら場の雰囲気悪くなるし」「仕事なくなるかもしれないし」と思っていることでしょう。しかし、間違いです。
頼まれるのは、スキルがあるからでもなく、可能性があるからでもありません。あなたが便利だからです。
何も文句を言わず淡々と作業してくれる、あなたが便利なのでしょう。他に探してもいいけれど、面倒だから「こいつでいいや」と思われています。
そんなあなたが例えば、「これ以上の作業は追加料金が発生します」と言ったとして「あ、そう。じゃあいいわ」と言われたのであれば、そもそもそこまでの縁です。安く使えないあなたが不要だから切っただけのこと。遠慮なくお断りしましょう。
搾取対策3・自身に付加価値をつける
便利屋だけの存在から、自分に付加価値をつけましょう。
ここで言う付加価値とは、他人から見て「あ、この人すごい」と評価されそうな実績です。
学歴や職歴、資格、過去の実績などです。ブログのアクセス数やアドセンスの収益額も評価の対象になります。
私の場合、ここで書いたような「クラウドワークス TOP Class名鑑掲載 ライター・ビジネス部門」とかですかね。実際、掲載された途端に、クラウドワークス経由で数十社からのお問合せがありました。
この付加価値があれば、作業時間や内容の交渉がしやすくなるほか、あなたの報酬額が格段に上がります。
クラウドワークスやランサーズなんかは、初心者ワーカーや無スキルの人も請け負える仕事がたくさんありますので、それをこなしていけば自然とシステムが評価してくれて、オファー数も増えます。早くて2〜3ヶ月でプロワーカーになれると思います。
またGoogleでは、以下のような無料で取得できる資格もあります。
- Google Ads 認定資格
- オンライン広告(セールス向け)認定資格
- Google アナリティクス個人認定資格(GAIQ)
- モバイルサイト認定資格
「これとると何になるの?」と思う人もいるでしょうが、webに詳しくないクライアントに対して「こんな資格ありますけど?」という強気に出れるカードになります。報酬が少ない時はぜひ試してみてください。
まとめ
フリーランスは、すぐさま報酬が手に入る反面、すぐに報酬がなくなることもあります。
自己啓発関係のオンラインサロンとかで「稼ぎたいなら死ぬ気でやれ」「初心者が時間を惜しむな」とよく言われてますが、それ他人が決めることじゃないですから。
確かに、自己スキルを上げるために影で努力する必要はあります。これはフリーランスに関係なく、受験勉強や資格取得など、人生において「努力すべき時期」というものが必ずあります。
しかし、それは自分で考え、自分でやると決めること。
自分の意図しない場面で、努力を強要されたときは、今一度「この人は本当に自分のために言ってくれているのか」と考えてみてください。